法政大学 生命科学部 環境応用化学科 河内研究室

研究内容

ケイ素を中心とした有機典型元素化合物について以下の観点から研究をおこなっている。
・典型元素ー典型元素間結合を有する新奇な化合物の合成・構造・物性
・特異な反応性を有する活性種の開発およびそれらの合成化学的利用

(1):官能性ケイ素アニオン種の化学の開拓〜14族元素化合物の構築〜

有機合成化学協会誌Vol.59,No.9,p.892-903(2001).

 官能性有機リチウムに代表される官能性カルボアニオンの化学は有機化学において極めて重要な位置を占めている。これに対して,中心原子を炭素からケイ素に置き換えた官能性シリルアニオンの化学は未開拓の分野であった。本研究では,窒素,酸素,硫黄置換基を有するシリルリチウムを開発し,官能性シリルアニオンの化学を開拓することに成功した。

窒素原子を有する(アミノシリル)リチウムは,0℃で数日間安定であり,安定な官能性シリルアニオンの初めての合成例となった。これに対して酸素原子を有するシリルリチウムは,求核性と同時に求電子性を有する両親性活性種であり,カルベノイドのケイ素類似体シリレノイドであることを明らかにした。(アルコキシシリル)リチウムは−78℃では安定であるのに対して、0℃付近では自己縮合を起こし,β-(アルコキシジシラニル)リチウムを与えた。これはシリレノイドの反応性を実験化学的に確認した初めての例となった。また,窒素原子または酸素原子上にアリル基を有するシリルリチウムでは,2,3-Wittig型の転位反応が進行することを見出した。さらに,硫黄原子を有するシリルリチウムでは,α脱離によりシリレンを発生することを明らかにした。このようにして,官能性シリルアニオンが,官能基の種類によって多様な反応様式を示すことを明らかにし,14族元素化合物を構築する上での有用な反応種であることを見出した。

(2):o-ジメタラベンゼン化合物の化学〜含ケイ素芳香族化合物の構築〜

2つの典型元素または金属をo-フェニレン骨格で連結したo-ジメタラベンゼン化合物の化学について,研究をおこなってきた。その中で,含ケイ素芳香族化合物を効率的に構築するための反応性化学種として,o-(フルオロシリル)フェニルリチウムを開発した。この分子は,求電子性を有するフルオロシリル部位と求核性を有するフェニルリチウム部位とを同一分子内に有する両親性活性種である。

このフェニルリチウムとクロロシラン類との反応により,従来法では合成が難しかった非対称o-ジシリルベンゼンを,また,ハロボランとの反応により,o-シリル(ボリル)ベンゼンを合成することができた。また,銅塩を用いたホモカップリング,パラジウム触媒を用いたクロスカップリングによりケイ素置換ビフェニルを合成することができた。また,14族二価化学種との反応では,含14族元素環状化合物が生成することを見出した。また,対カチオンをリチウムからマグネシウムまたは亜鉛に変換することで,o-(フルオロシリル)フェニルアニオンが安定化されることを見出した。

(3):Si-H結合の分子内活性化とB-H活性種の生成〜含ホウ素芳香族化合物の構築〜

有機合成化学協会誌Vol.75,No.7,p.714-722(2017).

 ヒドロシランは有機合成化学および有機ケイ素化学において重要な位置を占める化合物群であり,ヒドロシリル化反応やアルコールとの脱水素縮合反応は幅広く利用されている。ヒドロシランを用いた反応においては,ケイ素-水素結合の活性化が必須である。近年,強いルイス酸,例えばトリスペンタフルオロフェニルボランを用いてケイ素-水素結合を求電子的に活性化する手法が注目を集めている。われわれは,このケイ素−水素結合の求電子的活性化に興味をもち,これを分子内へと展開する研究をおこなってきた。

ヒドロシリル基またはジヒドロシリル基とホウ素原子とをo-フェニレン骨格で連結した分子は,o-(ヒドロシリル)フェニルリチウムまたはo-(ジアルコキシシリル)フェニルリチウムから効率良く誘導することができた。これらの分子とアルコールまたはアミンとの脱水素縮合は,室温で容易に進行した。また,フッ化物イオンとの反応では,ヒドリドがケイ素原子上からホウ素原子上へ移動することを確認した。また,これら強い求核剤がない場合には,加熱することで,ケイ素原子上の水素原子とホウ素原子上のメシチル基とが交換を起こし,系中でヒドロボラン中間体が生成することがわかった。ヒドロボラン中間体の生成は,ベンズアルデヒドを共存させるとヒドロホウ素化体が得られることから確認した。さらに,何も共存させない場合には,ケイ素原子上にフェニル基を有する基質において,環化体であるジベンゾシラボリンが生成することを見出した。

(4)ケイ素およびホウ素をルイス酸中心とする異核二座ルイス酸の開発

2つの異なる元素をルイス酸中心にもつ異核二座ルイス酸は,元素の種類およびとり得る配位数によってさまざまな組合わせが可能であり,それによって多様な性質を発現することが期待できる。本研究で開発したo-(フルオロシリル)フェニルリチウムを用いると,良好な収率でケイ素原子とホウ素原子をo-フェニレンで架橋した異核二座ルイス酸を合成することができた。

このo-(フルオロシリル)(ボリル)ベンゼンは、crown etherまたはcryptand存在下,フッ化物イオンを効率よく取り込み,フッ化物イオンが架橋したビスアート錯体を形成することを見出した。さらに類似の合成手法により,o-(ジフルオロシリル)(ボリル)ベンゼンの合成にも成功した。一連の誘導体について,フッ化物イオン取り込み能を調べた結果,モノフルオロ体よりもジフルオロ体,フェニル体よりもメチル体がより高いフッ化物イオン取り込み能を示すことを明らかにした。また,温度可変NMRにより,その動的挙動を明らかにした。

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